Bioethics

生命倫理について

生殖医療の有用性と危険性


生殖医療において、まずその有用性をあげてみましょう。

たとえば受精卵診断を事例にあげてみます。受精卵診断(※)によって、異常のない子を出生前から判断できるという点からすれば、中絶の心配はなくなり母体に大きな影響を与えることも避けられるでしょう。途中で胎児の異常が発覚し、母親が中絶を望むとしたら、危険性をともない、精神的・身体的にも非常に負担がかかってきます。しかし、この負担が大幅に軽減される生殖医療は、とても有用であるといえます。
次に、危険性をあげてみましょう。ここで問題となっている受精卵診断を実行することは、障害者差別を肯定することにもなりかねないということです。また、生殖医療の可能性が広がることで、生命の尊厳が薄れる危険性があります。人間の手で生命がコントロールされることは、人間のモラルにかなっているとは言いがたい。この面からすれば、生殖医療は倫理的な問題や危険性をはらんでいると考えられます。

受精卵診断とは



母親から採った卵子と精子を体外で受精させ、細胞が4〜8個に分裂した段階で、そのうちの1〜2個の細胞を取り出して遺伝子や染色体の異常を調べる診断方法。2006年2月、日本産婦人科学会理事会で、習慣流産を防ぐための受精卵診断を一部認める方針を決めた。同学会が認めた対象は、流産を2回以上繰り返し、染色体の転座が原因であることが確実な夫婦とされている。受精卵診断については、1998年に重い遺伝病に限り、個別に審査して認めるとの学会指針を定めており、今回、習慣流産が加えられた。ただ、これに対しては倫理的な批判もある。また、受精卵診断を実施するに当たって、臨床遺伝学に精通した者(臨床遺伝専門医など)による子の予後などを含めた遺伝カウンセリングが実施される必要があるとしている。
【参考:今西二郎 京都府立医科大学大学院教授/2007年】

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